コラム:今さら聞けない電子契約①「電子契約って何?契約方法に規則はあるの?」契約書の価値と共に解説

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    働き方改革の推進や新型コロナウイルス蔓延により、多くの企業でリモートワークが日常化しています。そんな中、リモートワークでも契約業務をストップさせない電子契約に切り替える企業が増加し、契約相手から「電子契約でお願いします」と依頼されることがあるのではないでしょうか?

    便利な電子契約

    以前は紙の契約書に印鑑を押して印紙を貼り、契約書を作成、そして返信用封筒を付けて、場合によっては書留で郵送していました。しかし、電子契約はパソコン画面で電子署名のボタンをクリックすれば契約締結が完了します。

    印紙も必要ないため、郵便局に印紙を買いに行くことや、金庫に印紙を保管する手間もなくなりました。なんといっても、これまで郵便のやり取りで1週間ほどかかっていた契約締結があっという間に完了し、コストだけでなく時間も節約できて非常に便利になったことを感じます。

    しかし、契約は重要な業務であるため、以前は必要だった印鑑や印紙がなくて本当に大丈夫なのかと不安に思う方も多いことでしょう。

    契約の締結方式に法律上の一般的な規制は無い

    日本の法律では、契約に関する原則を民法で定めています。

    民法522条2項では「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と定めており、これは「契約の締結には、印鑑や署名が必ずしも必要ではない」ということを意味しています。

    日本では口約束でも契約でき、電話発注でも発注は成立するのです。

    契約締結はどのような方法でも良いとされているのにも関わらず、これまでなぜ印鑑や署名が必要だったのでしょうか。

    実は、契約書の大事な役割は、契約に合意した内容の「確認」と「保存」です。複雑な契約内容を口約束で終えるわけにはいかず、互いに証拠として保存しておくものが契約書なのです。

    これにより、ほとんどの契約書の末尾には「本契約を証するため本書 2 通を作成し、甲乙記名捺印の上、各 1 通を保有する」という文言が加えられています。

    つまり、契約書は締結のためにあるのではなく、契約内容の確認・記録のため「証拠」として保存するものなのです。

    ところで、契約締結には「民法上の規制はない」と説明しました。

    契約の締結の仕方に規制がないため、電子契約に対する法律上の定義や規制もありません。つまり「これが電子契約だ」という一元的な決まりがなく、様々な電子契約があり得るということになります。

    個別の法規制に注意

    ここで、少しややこしいことをお伝えすると…

    契約の締結方式に規制はないが個別の法律による規制はあります。


    例えば、お金の受け渡しがある契約書は、法人税法により保存義務が存在します。電子契約であれば、電子帳簿保存法の要件を満たした方法で保存しなければなりません。また、建設業法では契約書の交付が義務となっており、電子契約で行う場合は本人確認やシステム上の要件があります。その他にも、個別に様々な法規制があることは覚えておきましょう。

    証拠となる契約書

    さて、日本では契約締結に関する原則を民法で以下のように定めています。

    ~~民法~~

    第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

    2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

    契約締結の方法に関する一般的な規則はありません。

    マンションの賃貸契約や雇用契約のように個別の法律で(電子契約を含めた)書面交付が求められるケースはありますが、一般的には電話でもメールでも、対面の口頭でも契約は締結できます。

    では、契約書はなぜ必要なのでしょうか。

    契約が成立しているかどうかや契約内容が問題となるのは、契約の当事者間で紛争となったときです。

    裁判になった場合は、自身の主張を裏付ける証拠が必要となり、口頭で合意しただけの契約では「言った」、「言わない」の水掛け論に陥ってしまいます。

    万が一、裁判となった場合に契約が成立していることや契約内容について証拠として提示できるのが「契約書の価値」といえるでしょう。

    証拠として認められる契約書とは

    では、証拠として認められる契約書とは、一体どのようなものでしょうか。

    まず、「契約」と「契約書」は異なるということを理解しておきましょう。「契約」は当事者間の合意であり、「契約書」は契約の内容を表示する文書で、証拠となるものです。裁判で何が証拠になるのかを定めているのは民事訴訟法であり、証拠として文書が使えるかどうかは、以下のように定めています。

    ~~民事訴訟法~~

    第二百二十八条 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。

    2 文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。

    3 公文書の成立の真否について疑いがあるときは、裁判所は、職権で、当該官庁又は公署に照会をすることができる。

    4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。

    5 第二項及び第三項の規定は、外国の官庁又は公署の作成に係るものと認めるべき文書について準用する。

    文書などに本人の意思が反映されているかどうかは、実は難しい議論であり、印刷された文書だけでは誰が作成したか確認できません。

    本人の意思によらない文書(本人確認していない文書)をいくら厳格に保管したとしても契約書の有効性にはつながりません。契約書として有効に機能するためには(すなわち、裁判において契約書を証拠として利用するには)、文書が次の2点を満たしていることが必要で、これをもって文書の「形式的証拠力」があるといえます。

    ①契約者本人による作成が確認できること

    ②改ざんされていないことが確認できること

    契約者本人による作成の確認が、この民事訴訟法で「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」と規定されています。

    そのため「形式的証拠力」が必要となるのです。


    自身が関わった契約が裁判に発展するなどとネガティブな想像はしたくありませんが…

    「備えあれば患いなし」という言葉もあるように、万が一に備えて日頃から準備しておくのが大切です。

    ※この記事は2023年2月2日・3月22日「ニッキンONLINE」にリーテックスが寄稿したものを再編集し掲載しています。

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