「デジタル証明研究会」の発足について | リーテックス株式会社特別企画(池田眞朗顧問、小倉隆志社長 対談)【Part5】

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    リーテックス株式会社特別企画(池田眞朗顧問、小倉隆志社長 対談)

    【Part5】「デジタル証明研究会」の発足について

    小倉 この度発足したデジタル証明研究会についてお聞きします。池田先生が座長に就任されたということですが、どういう狙いを持った研究会でしょうか。

    池田 現在は100年に一度と言われる急激な変革の時代で、ビジネスが目まぐるしく変わっています。とりわけデジタル化の進展は、世の中に多大な影響を与えます。しかし、これを適切に進展させまたコントロールできる社会システムが存在しているでしょうか。こういう時代には、法律の制定や改正はどうしても後追いになる。中世以来疑問を持たれなかった、法律による社会コントロールの限界が見えてきていると思われます。そうしたら、この状況をコントロールして社会を適切に発展させるには、今までにない形の「ルール創り」のエンジンになるものが必要だと思ったわけです。

    小倉 ということは、このデジタル証明研究会は、これまでの研究会といわれるようなものとどう違うのですか。

    池田 これまでは、たとえば学者の研究会や学会は、その専門の学者ばかりが集まって研究成果を披露するものでした。そうすると、例えば私の専門の民法の学会や研究会でいうと、条文や判例、学説の細かい解釈論を論じる集まりになっていました。でも、それでは、既存のルールを細かく検討するだけで、法律もできていないような新しい課題には全く対処できない。では一方でお役所の開く研究会あるいは審議会というものは、そのテーマに通じた有識者として学者や業界団体の代表者が呼ばれるのですが、大方はお役所の取りまとめたい方向性が見えていて、ひとあたり議論をして結局そのお役所のプラン通りの結論を出す。これでは、予定された筋書き以上のイノベィティブな結論は出てこないのです。

     そこで私が考えていたのは、産官学連携とはよく言われますが、文字通り、産と官と学が3分の1ずつくらいの構成員数で出来上がる、課題解決のための集団、そういう性質を持った研究会でした。

    小倉 その産と官と学が3分の1ずつという発想のポイントはどこにあるのでしょう。

    池田 つまり、この急激な技術革新の時代には、情報がどこに一番早く集まるかと考えると、それは官でも学でもない、産、つまりビジネスの最前線なのです。ですから私は、まず産からの情報を集めて課題を認識し、それについて学が社会実装するためのルール化を考え、それを官に提案する、ということがベストであろうと考えました。この順番は、これまでのわが国の立法プロセスの常識の逆かもしれません。そして、その新しいプロセスを採用することには抵抗もあるし時間もかかる、それだったら最初から産官学が一緒になって課題解決を考えるフォーラムというかコンソーシアムというか、名称はなんでもいいのですが、そういう機能を持った研究会が組織されるべきだと思っていたのです。

    小倉 そのお考えが、今回の研究会の提案において、先生の提唱するビジネス法務学とつながった、ということでしょうか。

    池田 その通りなのです。ビジネス法務学は、法学者の培った知見を、法律というハードローだけではなく、社会のさまざまなルール、契約やソフトローにも広げて考えることで、世の中が適正に動くための秩序体系を動的に考察し、課題を解決しようとするものです。そこでは、時代の変化に対応する創意工夫を、さまざまなレベルのルール創りでつないで行くことが肝要と考えています。さらにいえば、ビジネス法務学は、法律学の枠を超えて、経済学、経営学、地政学、工学などと連携し、その中心になって、「ルール創り」というビジネス法務学の主要な役割からして、それら諸学のハブにならなければいけないとまで考えている次第です。

    そこへ、この度、小倉様から社会のデジタル化について、特に、リアル空間とデジタル空間を結びつけるための「デジタル証明」について研究会を立ち上げたいという呼びかけをいただき、大いに共感し、大変に意義深いことと考えました。私としては、いわばビジネス法務学を最先端で実践する第一弾ともなろうかと感じている次第です。、

    小倉 それは大変ありがたいお言葉ですが、先生が座長をお引き受けくださった決め手が何かありましたでしょうか。

    池田 はい、それは、小倉さんが言われる、「真実の証明」という言葉でした。私のビジネス法務学が第一義に考えるのは、企業や金融機関の利益ではなく、人間社会の持続可能性なのです。AI時代が到来したことを考慮するとなおのことなのですが、デジタル証明、つまりデジタルの世界における、だれが、いつという人的証明、時的証明、そして内容の真正さの証明は、まさに「真実の証明」であり、それが社会における「安心・安全の証明」にもなると思ったからです。

    幸い、この研究会は、産からも学からも官からも、力量があり発言力のある優秀な方々に多数ご参加をいただくことができました。トラストサービスの立法化など、喫緊の課題に対処していきたいと思いますので、これからの活動をご期待いただきたいと思います。

    小倉 有難うございます、これからどうぞよろしくお願い致します。               

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