ビジネス法務学のルール創りと国際標準 | リーテックス株式会社特別企画(池田眞朗顧問、小倉隆志社長 対談)【Part3】

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    リーテックス株式会社特別企画(池田眞朗顧問、小倉隆志社長 対談)

    【Part3】ビジネス法務学のルール創りと国際標準

    倉 池田先生の提唱されているビジネス法務学は、当事者がそれぞれの創意工夫を契約など、広い意味のルール創りでつないでいくことを要諦とされています。今回はそのルール創りが国際的になる場合の問題をお聞きしたいと思います。

    池田 はい、急激な変悪の時代に法律の制定や改正が追い付かない、それであれば現下の課題を個人や企業が契約という形で創意工夫して解決していく、というのがビジネス法務学の要諦なのですが、それは相対の当事者、あるいは一定の合意をした当事者グループでの課題解決方法であるわけです。ですから、たとえば動画配信のように、必然的に国境を越えるような取引では、個々の当事者のルール創りでは賄えない、あるいはそのルールが通用しない、場面が出てくる可能性があります。

    小倉 そうすると、ビジネス法務学ももう一段別の「ルール創り」のスキームを考える必要がありますね。

    池田 はい、その通りです。それが「国際標準」という名前のルール創りなのです。これがなかなか厄介なのです。工業製品の標準規格などでは、スイスのジュネーブに本部がある。世界169カ国で構成するISO(国際標準化機構)が有名ですが、そういうところに提案して国際基準を勝ち取る。これも力関係ですから、まず国内で固めて、それをしっかりそういう国際機構にアピールしていかなければならない。ただ工業製品の企画などはまだ明瞭なのですが、問題は、ICTにおける情報のように、モノではなく、必然的に国境を超える取引での標準化なのです。

    小倉 そうしたら、いわゆるデジタル取引はすべて必然的に国境を超える取引になりますが。

    池田 はい、まさにそこなのですね。電子契約などをはじめとするデジタル取引の世界では、「真実の証明」が問題になります。人的証明、時的証明、そして内容の証明ができなければならない。またそれをどのように証明しどのように認証するか。内容に関する真実の証明は、ハッシュ値を使えばどこか一か所改ざんされただけでもハッシュ値が大きく変わりますから改ざんの有無はすぐわかりますが、だれが、どういう権限で、いつ、この契約書を作ったか。通知の類であればいつ到達したのか、等々を証明できるようにする必要がある。つまり、デジタル化された取引については、なんらかの国際ルールを作らないわけにはいかない。それをせずに民間で自由勝手にデジタル取引を伸長させても、国際的に信頼されず通用しないとなれば、その国のデジタル取引は確実に衰退する、つまり、とりもなおさず、その国の経済的競争力が落ちる、ということにつながると思います。

    小倉 ただ、その場合の国際標準というのは、工業製品の国際規格のように、世界で一つに統一される必要はあるのでしょうか。

    池田 これは、標準学という学問もあるようですが、物の標準と情報の標準は違います。情報の評価とか認証に関する基準は、世界で唯一の標準に統一するということに限らず、有力国の間で一定水準にあると構内で認めたものを相互に認証するというやり方が可能なようです。ただその場合も、外国との相互認証に堪えるだけの国内でしっかりした認証基準を創り、それを普及させている実績が必要です。

    小倉 そういうところまでビジネス法務学は手を広げるわけですか。

    池田 もちろんです。たとえば、国際標準とはちょっと違うのですが、最近の話題の一つに、三菱重工業が国産のジェット旅客機の製造を試みて、試験飛行まで成功しながら事業を断念した話がありますね。あれは、アメリカやヨーロッパが主導する「型式証明」が取れなかったということが大きな理由なのですが、一般の方は型式証明というのは工学、テクノロジーの問題とお考えです。けれども、私に言わせれば、この型式証明をどう取るのかというのは、まさにビジネス法務学の問題だということになります。

    小倉 ビジネス法務学が言う「創意工夫を契約でつなぐルール創り」というのは、国際的な規模でも考えなければいけないというわけですね。

    池田 おっしゃる通りです。今度私が出そうとしている『ビジネス法務学の誕生』という本では、国際標準や型式証明まで触れています。そして、小倉さんがおやりになっている電子契約、これは、日本では法律改正が遅れている最たる例なのですが、この電子契約などにおける真実の証明をする、デジタルトラストサービスというものがあります。これをどう整備確立するかが喫緊の大問題なのです。先ほどもお話しした、人の証明、時間の証明、内容の真実さの証明、そういうルールをまず国内で整備し確立して、それを国際的な相互認証にもっていく。これがビジネス法務学がすぐに手を付けなければならない課題だと思い、研究会も組織したところです。

    小倉 ではそのお話はまたあらためてお聞きしましょう。有難うございました。

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