ビジネス法務学とは? | リーテックス株式会社特別企画(池田眞朗顧問、小倉隆志社長 対談)【Part1】

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    リーテックス株式会社特別企画(池田眞朗顧問、小倉隆志社長 対談)

    【Part1】ビジネス法務学とは?

    小倉 池田先生は最近、ビジネス法務学という新しい学問を確立されたということなのですが、まだ一般にはよく知られていないかと思います。今日はこのビジネス法務学についてご説明をいただきたいと思います。ビジネス法務学というのは、学とついていますが、これまでの企業法務や金融法務と、まずどこが違うのでしょうか。

    池田 はい、新しい学問ですので、これから皆さんにしっかりご理解をいただかなければと思います。まずご質問の点ですが、これまでの企業法務や金融法務というのは、結局、企業や金融機関が法律関係の業務をトラブルなくスムーズに進めることや自社を法律的に有利にするということを目的としていたわけです。けれどビジネス法務学が第一義の目的とするのは、企業や金融機関の利益ではなく、人間社会の持続可能性なのです。学問である以上、倫理や規範的判断力の要素も当然入りますし、企業の社会的責任や、SDGs・ESGの問題も必然的に検討されることになります。

    小倉 ただ扱う範囲はビジネスということでいわゆる商取引に限られるのでしょうか。

    池田 いいえ、たとえば現在議論されている選択的夫婦別姓の問題、これは、ビジネスにおける女性活躍ということで当然重要な検討範囲になります。また、少し前に議論されたジャニーズの問題、実はこれも国内の人権問題やマネジメント契約の問題から国際的な企業の国連の人権擁護ルールの問題まで、すべてビジネス法務学の検討範囲なのです。ですから、人間の社会的な営みはほとんどこのビジネス法務学の考察範囲になるとお考えください。

    小倉 そうすると逆にずいぶん広い範囲を扱うことになりますね。従来の法律学との関係はどうなりますか。これまで法律関係の実務は、法律学の応用のように言われていて、あくまでも法律学の理論が上位にあったようですが。

    池田 この点も、ビジネス法務学は法律学とは別物と思っていただきたいのです。ビジネス法務学は、世の中の課題を解決するために、法律学の知見も使いますが、経済学、経営学、さらには地政学とか理科系の工学とか、さまざまな学問分野を活用して、それらの分野をつなぐ中心のハブになるような学問に成長すると思っています。ですから、法律学もビジネス法務学が活用する一学問分野に過ぎないということになります。

    小倉 大変大きな構想のようですが、そもそも先生がそのように、法律学を凌駕して様々な学問分野のハブ的な存在になる学問を創設されようと考えた理由をお聞かせください。

    池田 これは、ある意味明瞭なのです。現代は、一方で急速な技術革新が進み、他方で地球温暖化、沸騰化ともいわれますが、これがいっこうに止まらない状況にあります。この時代認識がビジンス法務学を生みました。つまり、こういう時代ではビジネスをはじめとして社会の構造がめまぐるしく変化する。そうすると、私も法学者ですが、法律はどうしても変化の後追いになる。ですから、これまでずっと疑問を持たれなかった、法律による社会のコントロールということができなくなる時代になってきている。では人々はこの時代を生きぬくためにどうしたらいいのか。ここにビジネス法務学が要諦とする、「創意工夫を契約でつなぐ」、つまり当事者が、国による法律制定を待たずに、自主的に契約という広い意味のルール創りをして、課題を解決していく必要が出てくるわけです。

    小倉 そうすると、その当事者というのは個人や会社ですか。

    池田 これは、個人から会社、地方公共団体、国と、様々なステークホルダーによるルール創りが考えられます。個人同士から個人と会社、、会社同士、会社と市町村や国、さらには国同士の合意や覚書等まで、広く考えてください。

    小倉 そのポイントになる「創意工夫を契約でつなぐ」具体例をいくつか教えてください。

    池田 たとえば個人で言えば最近では小さい子供の靴や自転車のサブスクリプション契約というのがあります。体の成長に応じて靴や自転車を借り換えていけるというものです。スタートアップの成功例は、たとえば農家と消費者を直接つないだ「食べチョク」ですね。農家の粗利が3割から8割に上がったといいます。しかもこれが素晴らしいのは、「食べチョク」の運営者はオーガニック栽培の基準をクリアした生産者農家としか契約しないということでSDGsの言う持続可能性に叶っている、かつ生産者は、自分で農作物の価格を設定できるという自立した経営の持続を図れる、ということなのです。

    もちろん、こういうミクロの話もあれば、ガソリンスタンドを経営する石油元売会社が電気自動車の充電スタンドを経営しようとする、けれど消防法の規定でガソリンスタンドには併設できないので、たとえば郊外のホームセンターとタイアップする、などという企業努力のケースもある。さらには、半導体、EV電池などで、国と国が原料のレアメタルやレアアースの供給合意をする。というように、創意工夫を契約でつなぐビジネス法務学は、個人から國まで、多様な当事者の行動を扱うわけです。

    小倉 なるほど、急激な変革の時代に、「創意工夫を契約でつないで課題を解決していく」新しい学問というわけですね、これからの発展を期待しております。有難うございました。

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