国際貿易の書類を電子化するとき、最大の壁は技術ではなく「法律が電子の書類を紙と同じように認めてくれるか」です。この壁を国際的に取り除こうとしているのが、国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)と、同委員会が2017年に採択した「電子的移転可能記録モデル法(MLETR)」です。
本記事では、UNCITRALの役割から、MLETRの仕組み、トラストサービスとの関係までを整理します。さらに、日本でMLETRを使う場合の国内法との関係、電子船荷証券などの具体的な活用例、システム導入時に確認すべき本人確認・電子署名・データ管理の要件まで、実務目線で解説します。
目次
デジタルによる国際商取引の概要とUNCITRALの役割
デジタル商取引の現状と課題
契約の締結や請求、決済は、すでに国境を越えてオンラインで行われるのが当たり前になりました。一方で、貿易の現場には船荷証券、為替手形、倉庫証券など、いまも紙の原本を郵送する書類が多く残っています。
紙が残る理由は、多くの国の法律が「原本を持っている人が権利者」という前提で作られているからです。電子データは簡単に複製できるため、「どれが唯一の原本か」「誰が権利を持っているか」を法的に示しにくいのです。
その結果、次のような課題が生じています。
- 書類の郵送に数日〜数週間かかり、貨物の到着に書類が間に合わない
- 紙の書類の偽造や紛失のリスクがある
- 国ごとに電子文書の扱いが異なり、一国だけ電子化しても取引全体が電子化できない
- 電子署名やデータの真正性を、相手国の法律で認めてもらえるか不透明
これらはいずれも、技術ではなく法制度の不一致から生まれる問題です。だからこそ、国際的な法の調和が求められています。

UNCITRAL(アンシトラル)の役割と目的
UNCITRAL(United Nations Commission on International Trade Law、国連国際商取引法委員会)は、1966年に国連総会決議によって設置された国連の機関です。事務局はウィーンに置かれ、日本は設立当初から委員国として参加しています。
UNCITRALの目的は、国際商取引に関する各国の法律を調和・統一し、取引の障害を減らすことです。条約やモデル法、立法ガイドなどを作成し、各国が国内法を整える際の「共通の設計図」を提供しています。
実際の検討は分野別のワーキンググループ(作業部会)で進められます。仲裁、倒産、物品売買などと並び、電子商取引を扱うのがワーキンググループIVです。電子商取引分野では、これまでに次のような文書が採択されています。
| 採択年 | 文書名 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 2024 | 自動契約に関するモデル法 | AIなど自動システムによる契約の有効性 |
| 2022 | 身元管理とトラストサービスの利用と国際的承認に関するモデル法(MLIT) | 本人確認・トラストサービスの法的効果と国際承認 |
| 2017 | 電子的移転可能記録モデル法(MLETR) | 船荷証券・手形などの電子化 |
| 2005 | 国際契約における電子的通信の利用に関する条約 | 国際契約での電子通信の有効性 |
| 2001 | 電子署名モデル法 | 電子署名の法的効果 |
| 1996 | 電子商取引モデル法 | 電子データを紙と同等に扱う基本原則 |

国際商取引法の出典とその重要性
国際商取引に適用されるルールは、一つの法律にまとまっているわけではありません。主な「出典(法源)」は次のとおりです。
- 条約:批准した国を直接拘束する。例として国際物品売買契約に関する国連条約(CISG)がある
- モデル法:各国が国内法を作る際のひな形。国の事情に合わせて修正して採用できる
- 立法ガイド・解説:モデル法の趣旨や運用方法を示す補助資料
- 契約ルール・商慣習:インコタームズや信用状統一規則(UCP600)など、当事者が契約に取り込んで使うルール
- 各国の国内法:最終的に裁判で適用されるのは、多くの場合いずれかの国の法律
この中でモデル法は、条約より柔軟で各国が採用しやすいという特徴があります。複数の国が同じモデル法を採用すれば、国内法の内容が自然にそろい、国際取引の予見可能性が高まります。MLETRがモデル法として作られたのも、このためです。
モデル法MLETRとデジタル貿易の法整備
モデル法MLETRの概要と意義
MLETR(Model Law on Electronic Transferable Records、電子的移転可能記録モデル法)は、2017年7月にUNCITRALが採択したモデル法です。船荷証券や約束手形のように、「書類を持っている人が権利を行使できる」タイプの書類を、電子データのまま法的に有効にするためのルールを定めています。
MLETRの考え方は、次の4つのポイントに整理できます。
- 機能的同等性:紙の書類が果たしている機能を電子記録が満たせば、紙と同じ法的効果を認める
- 「占有」から「支配(コントロール)」へ:紙の「所持」に代えて、電子記録を排他的に支配していることを権利の根拠とする
- 技術中立性:ブロックチェーン、中央管理型の登録システム、トークンなど、特定の技術を指定しない
- 外国の電子記録の非差別:外国で発行・利用されたことだけを理由に、電子記録の効力を否定しない

電子記録が紙の書類の代わりになるためには、MLETR上、おおむね次の条件を満たす必要があります。
- 紙の書類に記載すべき情報が電子記録に含まれている
- その電子記録が「唯一の対象記録」であることを特定できる
- 電子記録を特定の人が排他的に支配でき、その人を特定できる
- 電子記録の完全性(改ざんされていないこと)が保たれている
- これらに用いる方法が「信頼できる方法」である
なお、株式や債券などの証券・投資商品はMLETRの対象外です。対象は、主に貿易や金融で流通する書類に限られます。
UNCITRALの公表によれば、2026年10月時点でMLETRに基づく(または影響を受けた)法律を制定したのは13か国・地域です。シンガポール、英国、フランス、バーレーン、アブダビ・グローバル・マーケット(ADGM)などに加え、2025年には中国(船荷証券に限定)やモーリシャス(為替手形に限定)も名を連ねました。
ワーキンググループIVレポートの内容と影響
UNCITRALのワーキンググループIV(電子商取引)は、MLETRをはじめとする電子商取引分野の文書を起草してきた作業部会です。各会期の議論は報告書(レポート)として公開され、各国の立法担当者や実務家が条文の趣旨を理解する重要な資料になっています。
MLETRの採択後、ワーキンググループIVの関心は「電子化された書類」から「データそのもの」や「取引の自動化」へと広がりました。主な流れは次のとおりです。
- 2022年:身元管理とトラストサービスに関するモデル法(MLIT)を完成
- 2024年:AIなどを使った自動契約に関するモデル法を完成
- 2022年以降:データ提供契約(データを提供・利用する契約)のデフォルトルールを検討
直近では、2026年3月にニューヨークで第70会期、同年10月5〜9日にウィーンで第71会期が開かれ、データ提供契約のモデル規定案の条文審議が続いています。派生データの扱いや、データへのアクセスを許すだけの「受動的な提供」をどう扱うかが論点です。
これらの報告書は、各国がMLETRやMLITを国内法に取り込む際の解釈の手がかりになります。日本企業にとっても、取引先の国がどのようなルールを採用しそうかを予測する材料になります。
デジタル資産とプラットフォームに関する法整備の必要性
電子記録が経済的な価値を持つようになると、それは一種の「デジタル資産」として扱われます。電子船荷証券を担保に融資を受ける、電子約束手形を譲渡するといった場面では、誰が権利者か、倒産時にどう扱われるかといった私法上のルールが欠かせません。
この分野では、私法統一国際協会(UNIDROIT)が2023年に「デジタル資産と私法に関する原則」を公表しており、UNCITRALの文書と補い合う関係にあります。MLETRの「支配」の考え方は、デジタル資産の帰属を考えるうえでも基礎になっています。
また、電子貿易書類の多くは、民間の貿易プラットフォーム上で発行・移転されます。プラットフォームが異なると記録をやり取りできない「相互運用性」の問題や、運営者の責任範囲の問題もあります。UNCITRALでもオンラインプラットフォームに関する検討会が開かれており、今後の法整備のテーマになりつつあります。
2025年12月には、国連総会が「流通可能な貨物書類に関する国連条約(アクラ条約)」を採択しました。海上だけでなく陸・空・複合輸送で使える流通性のある貨物書類を認め、その電子版にも紙と同じ効力を認める内容で、MLETRの考え方を輸送全般に広げるものです。
トラストサービスとその重要性
MLETRは「信頼できる方法」を求めていますが、具体的な技術は定めていません。そこで重要になるのが、電子データの信頼性を第三者が担保する「トラストサービス」です。
| トラストサービス | 証明できること | MLETRとの関係 |
|---|---|---|
| 電子署名 | 誰が作成・同意したか | 記録の作成者・譲渡の意思の確認 |
| eシール(電子社印) | どの組織が発行したか | 発行者(船会社・銀行など)の確認 |
| タイムスタンプ | いつ存在し、以後改ざんされていないか | 譲渡の時点の証明、完全性の確保 |
| eデリバリー | いつ誰に送達されたか | 移転・通知の記録 |
| 長期保存(アーカイブ) | 長期間、真正なまま保存されているか | 紛争時の証拠保全 |
UNCITRALは2022年のMLITで、こうしたトラストサービスの法的効果と、国境を越えた相互承認の枠組みを示しました。MLETRが「何を満たせば電子記録が有効か」を定め、MLITが「その信頼性をどう担保・承認するか」を補う関係です。両者をセットで理解すると、デジタル貿易の法的な全体像が見えてきます。
MLETRを日本で利用する場合の法制度と実務への影響
結論から言うと、日本はまだMLETRを国内法に取り込んでいません。2026年10月時点で、紙の船荷証券と同じ効力を持つ電子船荷証券を一般的に認める法律は施行されておらず、商法改正は「準備段階」にあります。
商法改正の動き:「電子船荷証券記録」の新設
日本の商法では、船荷証券などの有価証券は紙で発行することが前提です。そのため、現在の電子B/Lサービスは、利用者全員が同じ規約に同意する「契約ベース」で運用されており、規約に参加していない第三者や裁判所に対して紙と同じ効力を主張できるかは不確かです。
この状況を変えるため、次のような流れで法改正の準備が進んでいます。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2026年9月 | 業界団体が法務副大臣に法案の早期提出・成立を要望(この時点で国会未提出) |
| 2025年6月 | 「経済財政運営と改革の基本方針2025」に、船荷証券の電子化を可能とする商法改正が明記される |
| 2024年9月 | 法制審議会が「商法(船荷証券等関係)等の改正に関する要綱」を法務大臣に答申 |
| 2022年2月 | 法務大臣が法制審議会に船荷証券等の電子化を諮問 |
要綱では、電子化された船荷証券を「電子船荷証券記録」と呼び、MLETRとできるだけ整合させる方針がとられています。電子船荷証券記録は、一定の技術的措置を備えた情報処理システム上で発行・移転され、その技術的要件の詳細は法務省令に委ねられる予定です。また、電子船荷証券記録と紙の船荷証券との相互転換も認められる見込みです。
実務上は、法案の提出時期と施行日、そして法務省令で定められる技術要件が、システム選定の最大の判断材料になります。
既存の国内法との関係
MLETRに沿った制度ができても、既存の国内法と矛盾するわけではありません。むしろ、次のように役割を分担する関係になります。
| 法律 | 主に定めること | 電子船荷証券記録などとの関係 |
|---|---|---|
| 商法(改正予定) | 有価証券としての効力、発行・譲渡・支配 | 電子記録に紙のB/Lと同じ権利の効力を与える中心的な法律 |
| 電子署名法 | 本人による電子署名がある電子文書の真正な成立の推定 | 誰が発行・譲渡の意思表示をしたかの証明を補強 |
| 電子記録債権法 | 電子記録債権(でんさい等)の発生・譲渡 | 手形に代わる電子的な金銭債権の仕組みとして既に機能 |
| 電子帳簿保存法 | 電子取引データの保存要件(真実性・可視性) | 電子B/Lや電子請求書を取引記録として保存する際に適用 |
| 民法・民事執行法 | 意思表示、債権譲渡、強制執行 | 電子記録の差押えなど執行手続の整備も併せて検討 |
ここで押さえておきたいのは、「電子署名法」や「電子帳簿保存法」を満たすだけでは、電子データが有価証券になるわけではない点です。電子署名は「誰が作ったか」を、電子帳簿保存法は「税務上どう保存するか」を定めるものです。権利そのものを電子記録で移転できるようにするのは、商法改正の役割です。
日本企業の実務への影響
商法改正後は、日本法が準拠法となる取引でも、電子船荷証券記録を紙と同じように使えるようになります。主な影響は次のとおりです。
- 輸出入企業:書類の郵送・受け渡しが不要になり、貨物の引き取りが早まる。保証状(L/G)による引き取りの必要も減る
- 銀行:電子B/Lを担保とした貿易金融(信用状取引など)が法的に安定し、審査の電子化が進む
- 船会社・フォワーダー:法務省令の技術要件を満たすプラットフォームの選定・対応が必要になる
- 経理・法務部門:電子帳簿保存法に沿った保存方法と、改正商法に沿った権利管理の両方を設計する必要がある
なお、取引相手の国がMLETRを採用しているかどうかで、電子記録の扱いが変わる点にも注意が必要です。シンガポールや英国など採用国との取引では、法改正後に電子化のメリットが最も早く表れると考えられます。
電子船荷証券や電子貿易書類でMLETRが活用される具体例
MLETRが最も効果を発揮するのは、「持っている人が権利者になる」書類です。代表例を整理すると次のとおりです。
| 書類 | 紙の場合の役割 | 電子化のメリット | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 船荷証券(B/L) | 貨物の引渡請求権を表し、譲渡で貨物を売買・担保化できる | 郵送不要で即時に移転でき、貨物到着前に書類が届く | 船会社・荷主・銀行が同じ、または相互接続されたプラットフォームを使う必要がある |
| 約束手形・為替手形 | 支払約束・支払指図を表し、裏書で譲渡できる | 紛失・盗難のリスクがなく、決済までの期間を短縮できる | 日本国内では電子記録債権(でんさい)が先行しており、国際取引との使い分けが必要 |
| 信用状(L/C)関連書類 | 船積書類を銀行が審査して代金を支払う | 書類の呈示・審査を電子化でき、支払いが早まる | 信用状の条件に電子呈示を認める規定(eUCPなど)を入れる必要がある |
| 倉庫証券 | 倉庫に預けた貨物の引渡請求権を表す | 在庫を担保にした融資(在庫金融)が迅速になる | 倉庫業者のシステムと金融機関の連携が前提 |
電子船荷証券の流れ
MLETRに対応した電子船荷証券は、おおむね次の順で「支配」が移っていきます。
- 船会社が貨物を受け取り、プラットフォーム上で電子B/Lを発行する(支配は荷送人=輸出者へ)
- 輸出者が、信用状取引の取引銀行へ電子B/Lの支配を移転する
- 銀行が書類を審査し、輸入者側の銀行を経由して支配を移転する
- 代金決済と引き換えに、輸入者へ支配が移転する
- 輸入者が電子B/Lを船会社に「呈示(返還)」し、貨物を受け取る。電子B/Lはこの時点で効力を失う
紙の場合はこの各ステップで国際郵便が使われ、数日から数週間かかります。電子化すれば、移転は数分で完了します。
実際に、MLETRを国内法化したシンガポールとアブダビ・グローバル・マーケット(ADGM)の間では、シンガポール政府のTradeTrustの枠組みを使って電子記録を移転する、国境を越えた貿易金融の試行が行われました。また、主要コンテナ船社は2030年までに電子B/Lを100%にする目標を掲げています。
実務で特に重要な2つのポイント
1. 誰が支配(管理権限)を持つのか
紙のB/Lでは「原本を手に持っている人」が権利者です。電子B/Lでは、それが「システム上で排他的に支配している人」に置き換わります。支配者は、システムに登録された利用者IDや秘密鍵によって特定されます。そのため、IDの管理や権限の委任(担当者の異動・退職時の引き継ぎなど)を社内で明確にしておくことが欠かせません。
2. 書類の唯一性をどう証明するのか
電子データはいくらでもコピーできますが、権利を表す記録は「一つ」でなければなりません。MLETRは、コピーを防ぐことではなく、「どの記録が権利を表す正本か」を信頼できる方法で特定できることを求めています。
唯一性の確保には、主に次の2つの方式が使われます。
- 登録簿(レジストリ)方式:中央の管理者が「現在の支配者」を台帳で一元管理する
- トークン方式:ブロックチェーンなどで、記録そのものを一つのトークンとして移転する
MLETRは技術中立なので、どちらの方式でも条件を満たせば有効です。ただし、異なる方式・異なるプラットフォーム間で記録を移す場合は、移転の途中で記録が二重に存在しないことを保証する仕組みが必要になります。
MLETR導入時の本人確認・電子署名・データ管理の要件
まず押さえるべきは、「紙の書類をPDFにしてメールで送る」だけではMLETRの要件を満たさないという点です。PDFは簡単に複製でき、誰が正本を支配しているかを特定できないからです。MLETR対応のシステムには、次の要件を満たす仕組みが求められます。
導入時に確認すべき要件チェックリスト
| 要件 | 何のために必要か | 具体的な手段の例 |
|---|---|---|
| 本人確認(身元確認) | 支配者が誰かを特定するため | 法人登記情報との照合、GビズIDなどの法人認証、利用者の多要素認証 |
| 電子署名・eシール | 発行・譲渡の意思表示が本人によるものと証明するため | 認定認証業務の電子署名、組織の電子証明書によるeシール |
| 改ざん防止(完全性) | 記録内容が変更されていないことを示すため | ハッシュ値の記録、タイムスタンプ、ブロックチェーンへの記録 |
| 唯一性・排他的支配 | 正本が一つであり、支配者が一人であることを示すため | 登録簿方式またはトークン方式による支配の管理 |
| アクセス権限管理 | 権限のない人が移転・閲覧できないようにするため | 役割に応じた権限設定、承認フロー(起案者と承認者の分離) |
| 監査記録(ログ) | いつ誰が何をしたかを後から検証するため | 発行・移転・呈示の全履歴の記録と改ざん防止 |
| 可用性・バックアップ | 障害時にも記録と支配状態を失わないため | 地理的に分散したバックアップ、障害時の復旧手順 |
| 長期保存 | 紛争や税務調査に備えるため | 電子帳簿保存法に沿った保存、長期署名による検証可能性の維持 |
本人確認と電子署名のポイント
電子記録の支配を移転するたびに、「本当にその会社の権限ある担当者が操作したか」が問われます。個人の電子署名だけでなく、会社として発行したことを示すeシールや、担当者の権限(代理権)をどう証明するかも設計に含める必要があります。
日本の電子署名法では、本人による一定の電子署名が行われた電子文書は真正に成立したものと推定されます。電子B/Lの発行・譲渡でも、こうした電子署名を組み合わせることで、紛争時の証明力を高められます。
システム障害と第三者検証への備え
電子記録は、システムが止まれば使えません。プラットフォーム選定では、平常時の機能だけでなく、次の点を契約や規約で確認しておくことが重要です。
- システム障害時に、支配の状態をどのように復元するか
- プラットフォームが事業を終了した場合、記録を別のシステムや紙に転換できるか
- 裁判所や監査人などの第三者が、記録の真正性を独立して検証できるか
- 外国のプラットフォームを使う場合、データの保存場所と準拠法はどこか
第三者による検証可能性は、特に重要です。プラットフォーム運営者を信頼するしかない仕組みでは、運営者に問題が起きたときに権利を証明できなくなります。タイムスタンプや電子署名など、運営者から独立して検証できるトラストサービスを組み合わせることで、このリスクを下げられます。
まとめ
UNCITRALは、国によってばらばらな商取引のルールを調和させ、デジタル化した国際取引の法的な土台を作ってきました。その中心にあるMLETRは、船荷証券や手形などを電子記録のまま紙と同じように使えるようにするモデル法で、2026年10月時点で13か国・地域が採用しています。
日本はまだMLETRを国内法化していませんが、2024年の法制審議会答申を受け、「電子船荷証券記録」を新設する商法改正の準備が進んでいます。企業としては、次の3点を今から押さえておくと、法改正後にスムーズに移行できます。
- 商法改正法案の提出・施行時期と、法務省令で定められる技術要件を継続的に確認する
- 取引先の国がMLETRを採用しているか、どのプラットフォームを使っているかを把握する
- 本人確認、電子署名・eシール、タイムスタンプなどのトラストサービスを含めて、社内の権限管理と保存体制を設計する
デジタル貿易の実現には、法律・技術・トラストの3つがそろう必要があります。MLETRはその「法律」の部分を担う国際標準として、今後ますます重要になっていくでしょう。
参考資料
- Status: UNCITRAL Model Law on Electronic Transferable Records (2017) – UNCITRAL
- Working Group IV 第71会期 データ提供契約モデル規定案(A/CN.9/WG.IV/WP.195)– UNCITRAL
- 流通可能な貨物書類に関する国連条約の採択 – FIATA
- シンガポールとADGM間のMLETR対応取引の試行 – GTR
- 法務及び司法行政に関する主な課題(船荷証券等の電子化)– 参議院
- 船荷証券等の電子化に伴う所要の措置(令和8年度地方税制改正要望)– 総務省
- 日本貿易DX協会、商法改正法案の早期提出・成立を要望 – PR TIMES

