法律的視点から見た電子契約の現状

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    電子契約サービスを検討する上で、切っても切れないのが法律との関係です。
    本記事では、法律的視点から電子契約の現状について整理・解説します。

    ※本記事は、2021年2月に開催されたウェビナー「西村あさひ法律事務所のパートナー弁護士が登壇!法律のプロが語る”電子契約の現状”解説セミナー」の内容を元に作成しています。

    そもそも電子契約とは

    電子契約の定義は、従来、書面を作成していた契約について電子的なデータにより保存・管理することです。

    ただ、現状は法令上で「電子契約」の概念が定められているものではありません。そのため、文脈や論者によって異なる意味合いで用いられている可能性があり、注意が必要です。

    そして、電子署名の利用の有無などにより、さまざまな形態の電子契約サービスが存在しています。

    電子契約サービスは、コロナ禍において関心が高まり、普及が進んでいます。ハンコを押すためだけに出社しなければならないという不便さを解消し、テレワークを推進する手段として注目が集まりました。

    さらに、テレワークへの活用だけでなく、コスト削減・作業効率の向上・契約管理の効率化といったメリットがあります。一方で、利用者の本人確認・なりすましリスクといった課題が残ります。

    電子契約サービスの導入の視点

    では、電子契約サービスを導入するにあたり、どのような視点で検討することが望ましいのでしょうか。

    まず、契約業務はそれを取り交わす企業、組織によって内容や事情が異なります。

    従って、対象となる契約に関するリスク・事務負担・コストとともに、導入を検討するサービスの機能、UI、事務フロー、セキュリティ、導入実績等を分析することで、サービス導入の有効性を評価することが求められます。

    対象とする事例によって電子契約サービスの有効性は異なり、一律に評価できませんが、有効性を分析する前提として、電子契約の法律的な位置づけ・効果を理解することは、企業・組織を問わず必要なことです。

    続いて、電子契約に関する主な法律的な論点について解説していきます。

    電子契約に関する主な法律的な論点

    電子契約に関連した法律的な考慮事項は、以下の内容が考えられます。

    • ・そもそも法的に効力が認められるか(契約自由の原則とその例外)
    • ・訴訟において証拠として利用できるか
    • ・税法上の取扱い(印紙税・電子保存)

    ここで注目したいのが、電子契約が「法的に効力が認められるか」と、「訴訟において証拠として利用できるか」というのは別の法律的な論点であるという点です。
    一体どういうことでしょうか?

    電子契約は法律的に効力が認められるか

    民法522条2項(締結方式の自由)
    契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

    上記のように民法では、原則としてどのような形式の電子契約であっても法的に有効であると規定されており、押印・電子署名は契約の有効性と無関係です。

    ただし、例外として一部の契約類型については紙での締結が義務付けられているものが存在します。

    電子契約では有効とはならない契約類型の例

    • ・定期借地契約・定期借家契約(借地借家法22条、38条1項)
    • ・任意後見契約(任意後見契約に関する法律3条)

    また、規制対応での利用の可否が定められており、規制上、一定の書面交付が求められる場面で契約書を利用するケースもあります。契約書の電子的な交付が認められるかどうかは、個々の規制次第です。

    電子契約を証拠として利用できるか

    以上のように一部の契約を除き、電子契約は契約として有効ですが、訴訟の証拠として利用ができるかはまた別の論点です。

    電子契約を訴訟の証拠として利用する場合、関連する法律には以下のようなものがあります。

    民事訴訟法228条1項(電子契約については231条で準用)
    文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。

    「成立の真正=作成者の意思に基づいて作成されたこと」を満たす必要があります。

    電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)3条

    電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの…は…本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。

    ①必要な符号・物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができる、②電子署名(電子署名法2条1項)が、③本人により行われている場合、そのような電子署名が付された電子文書の成立の真正が推定される、と規定されています。

    ただし、これはあくまでも推定規定であり、電子署名を用いない他の方法で成立の真正を立証できるのであれば、電子署名法3条の要件を満たすことが必須というわけではありません。

    そして、上記の2つの法律に則った電子契約であれば、訴訟の証拠としても利用できると考えられます。

    当事者署名型電子署名と事業者署名型電子署名

    前述の通り、電子契約サービスにおいて、電子署名は電子文書の成立の真正に関連する要素です。

    そして、電子契約サービスには、大きく分けて2つの電子署名の類型があり、それぞれ「当事者署名型」と「事業者署名型(立会人型)」と呼ばれています。

    ①当事者署名型電子署名
    当事者本人が電子署名を行うものです。
    電子署名法2条1項の電子署名に該当し、通常は同法3条の要件を満たします。

    ②事業者署名型(立会人型)電子署名
    利用者に代わってクラウド事業者が電子署名を行うものです。
    2つの政府見解(※)により、電子署名法3条の要件を満たしうることが明らかになりました。
    (※) 総務省=法務省=経済産業省「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A」(2020年7月17日)
    同「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」(2020年9月4日)

    この2つの類型が生まれた背景としては、元々は契約を締結する双方の当事者が電子署名を行う方式(当事者署名型)を取っていましたが、電子署名に関わる手続きが煩雑で不便なため、普及しない状況がありました。

    そこで、電子契約サービスの利便性を高め普及を図るために事業者署名型の電子契約が生まれ、この方式についても一定の要件を満たせば電子署名として認め得ると政府から正式に見解が発表されるに至ります。

    ただし、政府見解の中で注意すべきなのは「契約当事者(利用者)の操作によってのみ電子署名が行われる」ことが確保されて初めて、証拠として利用できると言及されている点です。

    単に電子署名があれば、ただちに訴訟の証拠として利用できることにはなりません。

    電子契約となりすましのリスク

    このように電子署名を用いることで、電子契約を訴訟における証拠として利用しやすい状況になってきましたが、一方でリスクも存在します。

    (1)第三者が当事者になりすまして電子契約が締結される可能性

    相手方がなりすましの場合、原則として真の当事者に契約の効果は帰属しません。 ただし、状況次第では表見代理が認められる可能性があります。

    また、本人確認が不十分で、なりすましのリスクが高い電子契約サービスについては、成立の真正が認められない可能性も考えられます。

    (2)電子契約となりすましのリスク

    なりすましのリスクは、書面によって契約を締結する場合も存在し、電子契約特有のリスクではありません。

    しかし、相手方との「リアル」な接触を伴わず、印影なども確認できない場合、相手方が真の当事者でないことに「気付く機会」が限定されます。

    そして、電子契約サービスを営むクラウド事業者による本人確認手続が十分になされていないとなりすましのリスクも高まることになります。

    現在の法令上、クラウド事業者に本人確認義務が定められておらず、本人確認手続の有無・内容は各事業者の事実上の対応次第となるため、検討の際は注意が必要です。

    本人確認がサービス外である事情も踏まえてリスクの軽重を判断することが必要と言えます。

    契約締結権限を持たない社員による契約の無断締結のリスク

    電子契約を結ぶ相手方の担当者が、契約締結権限を有していない可能性(なりすましの一類型ともいえる)もひとつのリスクと考えられます。

    相手方の担当者に契約締結権限がない場合、原則として当事者に契約の効果は帰属しません。ただし、状況次第では表見代理が認められる可能性があります。

    しかし、これは必ずしも電子契約サービスによって担保されるものではありません。

    無権限者による電子契約締結リスク

    契約締結の相手方が締結権限を有していないリスクは、書面で契約を締結する場合も存在するため、電子契約特有のリスクとは言えません。

    ここで問題になるのが、確認する手段の違いについてです。

    例えば、一定の手続きを経て電子契約を締結した場合は、締結権限があるものと「みなす」ことに合意しておくことでリスクを減らすことができます。

    電子契約サービスの中には、メールアドレスさえあれば法人としてアカウントの登録から電子契約の締結まで、気軽に行えるサービスもあります。利便性に優れる一方で、契約締結を行えるアカウントを自由に発行できたり、悪意を持って無断で契約締結を行い会社に損害を与えたりするリスクが生じます。

    その他の電子契約に関連する事項

    ここまで電子契約に関する法律的な解説でしたが、関連するその他の論点もまとめました。

    印紙税の要否

    作成した課税文書につき、印紙税が作成者に課されます(印紙税法3条1項)が、電子契約は課税文書として掲げられていないため、印紙税は課せられません。

    この根拠として、電磁的記録により作成された文書が非課税であるとする答弁書が存在します(内閣参質162号第9号)。以上から、電子契約により印紙税のコストの軽減につなげられます。

    電子契約の保存方法

    法人税法上、一定の帳簿書類については備付け・保存が義務づけられています。
    電子契約の取引情報に係るデータは、以下の要件に従って保存(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律10条)する必要があります。

    1. 真実性の確保((a)タイムスタンプまたは(b)訂正・削除履歴等の確保、関係書類等の備付け)
    2. 可視性の確保(見読性の確保、検索機能の確保)

    2020年度税制改正により①の要件を一部緩和(2020年10月1日施行)

    具体的な電子契約サービスを検討する際には、まず法律的な背景を踏まえ、それぞれのサービスの利便性や特徴を比較検討することが大切です。

    以上、今回の解説が電子契約サービスの検討の参考になれば幸いです。

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