電子契約に印影の表示は必要か

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    電子契約サービスには、印影の表示があるものと無いものが存在します。なぜ、このような事が起きているのでしょうか?

    この記事では、電子契約に印影の表示が必要かについて詳しく解説します。電子契約サービス検討の参考になれば幸いです。

    電子契約に限らず、契約書に印影の表示は必須ではない

    結論から言うと、電子契約に印影の表示は必要ではありません。
    それどころか、実は紙の契約書であっても印影は必須ではないのです。

    理由については後述しますが、電子契約に印影の表示がなくても、それによって契約自体の有効性が揺らぐものではありません。

    なぜ、契約書に印影の表示は必要ないのか

    電子契約に印影表示の必要がないのはなぜでしょうか。

    これには2つの理由が考えられます。

    理由その①

    契約の成立は「当事者間の意思表示の合致」により成立し、契約の形式については法律的な定めがありません。

    口頭でも契約は成立するため、印影のある契約書の作成は必要なく、法律面でも押印をして印影を残す行為の必要性は定められていません。

    実際に2020年6月に内閣府、法務省、経済産業省から連名で出された「押印に関するQ&A」では以下のように明記されています。

    Q1.契約書に押印をしなくても、法律違反にならないか。

    • 私法上、契約は当事者の意思の合致により、成立するものであり、書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない。
    • 特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない。

    https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/committee/20200622/200622honkaigi04.pdf

    このように契約書に印影がなくても違法ではなく、押印の無い契約書でも契約の効力に影響は生じません。

    理由その②

    電子契約を訴訟の証拠として利用するにあたり、関連する法律には以下があり、その要件が規定されています。

    文書は、その成立が真正であることを証明しなければなりません。
    民事訴訟法228条1項(電子契約については231条で準用)

    まず、裁判で契約書を証拠として利用するには「成立の真正=作成者の意思に基づいて作成されたこと」を満たす必要があります。

    電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの…は…本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
    電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)3条

    上記の通り、電子契約では付与される電子署名が①必要な符号・物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができる ②電子署名(電子署名法2条1項)が、③本人により行われている場合、そのような電子署名が付された電子文書の成立の真正が推定される、と規定されています。

    以上のように押印による印影の表示は要件として記載されておらず、電子契約を訴訟の証拠として利用する際も必要ではないことがわかります。

    なぜ契約書に印影を表示するのか

    電子契約・契約書に印影の表示は必須ではないことを解説しました。

    では、なぜ印影の表示機能を備えた電子契約が存在し、なぜ契約書に押印による印影を残すのでしょうか。

    Googleの画像検索で「契約書 アイコン」と検索すると、契約書をイメージしたアイコン画像が表示されます。その結果が下記の図です。

    出典:Google画像検索で「契約書 アイコン」と検索した結果

    印影がデザインされているものを赤枠で囲っていますが、これを見ると検索の上位に表示される契約書のアイコンには印影のデザインが含まれており、印影が契約書の象徴になっていると言っても過言ではありません。

    このように契約書に押印による印影を表示することが一般的になっているが、一体なぜでしょうか。

    理由の一つとして、印影に関連した最高裁での過去の判例(最判昭和39.5.12 民集18巻4号597頁)があります。この判例で「本人の印影があれば、本人の意思に基づく押印を推定できる」ということを示しました。(二段の推定)

    • 一段目の推定:本人の印鑑による印影があれば、本人の意思による押印を推定する(上記最高裁判例)
    • 二段目の推定:本人の押印があれば、私文書の真正な成立を推定する(民事訴訟法228条4項)

    つまり、本人による印影は契約書の要件ではありませんが、印影があることで本人による意思によって契約書に押印され、かつ、その真正な成立を推定できるとされるのです。

    契約の成立については、押印があることで真正性が推定され、証明する負担を軽減されるメリットがあります。契約の成立において押印は必須ではありませんが、成立の真正性の証明を簡便にできることから、契約書に印影を残すことが一般的になっていると考えられます。

    また、もう一つの理由として、会社の規定で契約書への押印がルール化されていることがあります。さらに会社によっては、契約書への押印を規定するだけでなく、代表印や役職印など押印する印鑑の種類を指定するケースもあります。

    一般的に契約を締結する際、会社としての意思決定においては、複数の観点から検討を重ねた上で決裁を行うべきものが多く存在します。そのため、多くの会社は関連部門で事前確認や承認を経て決裁権者が決裁を行い、最終的に契約書に押印を行うところまでを社内規定でルール化しています。

    このような会社では、ある事項に関する意思決定の内容は社内規定で定められた方法・手続きに則って稟議が行われ、決裁権者がこれを決裁することによって初めて内部的に確定します。そして、稟議のプロセスを経る中で確認者や決裁権者の押印、最終的には契約書への押印を行うことがルールとして求められます。

    この場合は、会社が有効性を認める契約書に指定の押印がされていることが要件となり、押印がなければその後、社内で必要な手続きが進められないなどの悪影響が発生する可能性もあります。

    このような状況では、会社で締結する契約書には特定の印影が必須になっていると言えるでしょう。

    電子契約における印影の表示をどう考えるべきか

    ここまで説明した通り、電子契約への印影の表示は必ずしも必須ではありませんが、紙の契約書における過去の判例や、会社の規定によって一律に不要とも言い切れない状況です。

    契約書に印影があるかないかは、一見して判別ができるというメリットがあります。

    また、印鑑は登記することができるため、本人の所有を証明する手段としても一定の有効性があります。

    さらに、前述のように会社によっては特定の印鑑による契約書への押印が社内規定等で指定されていることも珍しくありません。

    一方で、電子契約に表示する印影は単なる画像データのため、いくらでも複製が可能です。さらに現在は、3Dプリンター等の技術が発達し、印鑑及びその印鑑による印影を判別不能なレベルで模造することも簡単です。

    つまり、技術の進歩によって印影を用いて契約当事者の意思表示を断定したり、契約の真正の事実を証明したりすることが難しくなっているのです。

    このような状況を総合的に考えると、印影はそれに代わる証跡を残し、確認する方法(電子署名等)に置き換えを進めるのが適当ではないでしょうか。

    その場合は、当然社内規定の見直し等が必要になりますが、これに勝るメリットも考えられます。

    印鑑での押印業務や管理の負担が削減されることで業務効率が高まり、押印のための出社が不要になるなど、多くのメリットがあります。

    これも含めて、電子契約の導入の際は社内業務を見直すことが望ましいのではないでしょうか。

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